かもめ食堂

かもめ食堂を見た。

ヘルシンキへ旅行で行くことになったので久しぶりにこの映画を見た。私にとって「フィンランド」といってまず思いつく映画はこの「かもめ食堂」なのだ。

 「かもめ食堂」のロケエピソードが語られる片桐はいりの「わたしのマトカ」というエッセイによれば、フィンランドで作られる映画は年にたったの20本ほどであるという。どおりでフィンランド映画で検索しても全然出てこないわけだ。最近でいうと「365日のシンプルライフ」や「アングリーバード」の映画版なんかはフィンランド映画だそう。でもやはり有名なのはアキ・カウリスマキ監督の作品だろう。静かで重い人々の雰囲気がいつもただよう彼の作品が実はフィンランドの人々の様子を切り取っているのかもしれない。

 そしてこの「かもめ食堂」はあくまでも日本映画。ロケは全てフィンランドで行われたらしいけど、描かれているのは日本人が思い描く「フィンランドっぽさ」。というか、今フィンランドと言って日本人(女子)がイメージするもの(「マリメッコ」「鮮やかな色」「港のマーケット」「穏やかな町並み」「ゆったりした雰囲気」「のんびりした人々」など)は実はこの映画によって作り上げられたんじゃないかと思う。そのくらい、女子向けガイドブックにのっているフィンランド像と「かもめ食堂」のフィンランド像は似ている。

 そして荻上直子作品ではよくあることだけど、現実的な部分(経済的に大丈夫?やっていけんの?とか)は全く考えなくて良い(むしろ考えるな)完全なるファンタジー映画であるということを念頭に置いてみなければ楽しめないだろう。サチエの経営するかもめ食堂は初めの1ヶ月一人も客が来なかったようだし、どこに収入源があるのかは不明だし、みどりさんも居候しているけど収入があるわけでもない。完全にやっていけない人間たちの生活だけどそれでも成り立っているというところには目を瞑らなければならない。

 それでも私はこの映画のことを手放しに「つまらない」とは言い切れない。むしろ、前々から好きな部類だった。それはやはり彼女らへの憧れがあったからだろう。

 もたいまさこ演じるまさこは「荷物が出てこない」と言って登場するのだけど、これがまあ、もたいまさこが元から持っている独特の雰囲気も相まってかなりミステリアスなおばさん感がでている。港でかもめに「私の荷物はどこですか」って話しかけているときは「こいつやばいやつ」感が出すぎている。それから、やっと荷物が戻ってきてホテルで中を開けてみると消えたキノコがぎっしり詰まっているという超やばいシーンがある(なぜかギラギラ光っている)。そして、そのことを航空会社かなんかに電話するのだけど、

「確かに私の荷物に間違い無いみたいなんですけど、なんだか…違うんです」

とか言っても相手困るだけだろう!係りの人も暇じゃないんだからさあ。とか思ってしまうし、しかもそのあと近寄ってきた老人に無言で猫を渡されるというシーンはおもわず「いやどんなメッセージ性やねん!!?!??」と突っ込んでしまう。

 でも改めてもたいまさこという女優はなんだかすごいということを感じた。彼女はまず姿勢が素晴らしい。背筋が伸びているし、首が座っていて、凛として落ち着いた女性という雰囲気が身体から出てきていてすごい。彼女が着ている服や持ち物が素敵に見えるのはその佇まいからくるものなのだろう。あの姿勢のよさを見習いたい。背中で語るというのはこのことか。

 片桐はいり演じるみどりというの役は映画にユーモアとしてのスパイスみたいになっている。これがなんというか…一言で言えば「偏差値が低め」のキャラクター。映画においてキャラクターの偏差値を下げるということは見ている人の共感を得やすいことからよくあることだと思うけど確かにみどりさんは可愛らしい。

 例えば、もたいまさこが山に行ってキノコ狩りをしたけど帰ってくる間にいつの間にか消えてしまったという世にも奇妙な話をしているのにみどりさんは「へえ・・・」と一言。さらに、「ご注文はいかがなさいます?」と何事もなかったかのように続ける。そして、サチヨのおにぎりの良い話(母を早くに亡くし、父親がおにぎりを作ってくれたという話)を聞けばわかりやすく涙ぐんだり。そもそも世界地図を適当に指差してフィンランドに来たけど迷子になったから本屋にとりあえず入ったとかいうエピソードもすごいバカっぽいよなあ。それから変な柄のTシャツを色違いで持っていたりもして。トンミー・ヒルトネンのことをいつも「ねえトンミー・ヒルトネン」とフルネームでよぶところもそう。

 とにかく、能天気そうな人だけどそんな彼女もどうやら色々抱えてフィンランドへやってきたようではある。でもそこが掘り下げられることはなかったな。

小林聡美は一向に本音を語らない。店を始めた理由、フィンランドを選んだ理由、何に関しても聞かれるたびに違うことを言ったりその場で考えたことを言っていたり、一番謎めいている。彼女はなぜフィンランドを選んだのだろうか。なんとなくここならやっていける気がした、という言葉に全てがるような気もする。