明日には忘れてしまうような会話を、人は毎日繰り返している

"Coffee And Cigaretts”
/ジム・ジャームッシュ

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 コーヒーとタバコを嗜む人々の些細なオムニバスの会話劇。特別な話をしているわけではない。起承転結を大事にしてる映画なら、きっと想像の中に留めるだけの、映像にさえならないパートだろう。
それでもこれは、街で人が生きるのに最も身近な経験だ。街の平和のために命がけで戦うバットマンだって、コーヒーにシュガーを入れてザラついたコップの底をスプーンでかき回す何でもない些細な昼下がりがあるはずだ。そう、大抵の人生は平凡だ、毎日同じ様な時間を過ごし、たかが睡眠時間に一喜一憂する。特別なことや映画みたいなド派手でロマンチックな展開は起こらない。
それでも人は、明日には忘れてしまうような会話を繰り返す。そして実は会話だけじゃなくてコーヒーカップの下に型取られる丸いシミについて考えたり、目の前にいる人の髪を触る仕草を気にしたりしている。そんな時間のことを言葉にしたのが詩で、音に乗せて唄えば歌になる。伏線にも回収されない会話や出来事が生活を彩り、人生はどんどん重厚になっていく。そう、これもまたジム・ジャームッシュの映画なのだ。

 

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